写真の中の少年

2007年06月27日

今年6月23日、沖縄全戦没者追悼式で朗読された
沖縄尚学高校附属中学校2年生の匹田崇一郎くんの詩
「写真の中の少年」

壕から出てきたときに写された写真の中に自分の祖父が写っていたことから
書いたそうです。
全文です。

「写真の中の少年」

何を見つめているのだろう
何に震えているのだろう
写真の中の少年
周りの老人や女性、子どもは
身を寄せ合って声を殺しうずくまっている
後ろでは逃げ出さぬようにと
鋭い眼光で見張るアメリカ兵
その中で少年はひとり一点を見つめている
何を思っているのだろう

とうとう戦争はやってきた
いつ来るとも知れない恐怖に怯えながら
必死に生きてきた
少年のもとに
悪魔はとうとうやって来た

戦争で異境の地にいる父や母に代わって
ひとり毎日山へ行き
家族を守りたいその一心で
防空壕を掘り続けた少年
しかし無情にも堅い岩が
少年の必死の思いをあざ笑うかのように
行く手を阻み掘り進む事ができない
手には血豆
絶望感と悔しさが涙とともにあふれ出た

とうとうやって来た
奴は少年のすぐそばまでやって来た
殺される 死ぬのだ
そんな恐怖が少年を震わせ凍らせた

やっとの思いで入れてもらった親戚の防空壕
泣きじゃくる赤ん坊の口をふさぎ
息を殺して奴の通り過ぎるのを祈った
少年は無我夢中で祈った
しかし祈りは天には届かなかった
壕の外でアメリカ兵の声
「出て来い」と叫んでいる
出て行くと殺される
「もう終わりだ」

少年は心の中でつぶやいた
先頭に立って出て行こうとする母親を
少年は幼い手で必死に引き止めた
けれどいつしかその手は離れ
母親はアメリカ兵の待つ入り口へ
それに続いて壕の中から次々と
少年や親戚が出て行った
写真はまさにその直後に撮られたものだ

とうとうやって来た
恐怖に怯え 夢や希望もなく
ただ生きることだけに
家族を守ることだけに
必死になっていた少年のみとに
悪魔はやって来た

写真の中の少年
一点を見つめ何を思っているのだろう
写真の中の少年 僕の祖父
何を思っているのだろう
どんな逆境の中でも最後まであきらめずに
頑張って生き抜いてきた祖父
だから今の僕がいる
命のリレーは
祖父から母へ 母から僕へと
つながった
あの時祖父が生きることをあきらめずに
必死で生きてきたから僕がいる
だから
自分で自分の命を絶ったり
他人によって奪われたりということは
いつの世でも いかなる場合でも
決してあってはならないことだ

僕がいる
必死で生き抜いてきた少年がいたから
僕がいる
僕はこの少年から受け継いだ
命のリレーを大事に絶やすことなく
僕なりに精一杯生きていこう
また少年から聞いた
あの忌まわしい戦争の話を
風化させることなく
語り継いでいこう



Posted by つむぐ at 09:14│Comments(0)
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